2009年05月28日

[Book]アメリカモデルの終焉

アメリカモデルの終焉(東洋経済新報社、著者:冷泉 彰彦)
アメリカモデルの終焉
冷泉 彰彦
東洋経済新報社
売り上げランキング: 63849
おすすめ度の平均: 4.5
4 現代アメリカ論としても一読の価値があり
4 日本経済と労働環境の未来を見据えた本です。
5 「組織とは評価の対象と範囲を決めるために作られた」大胆な視点
5 こんな日本に誰がした??
目次
第1章 日本企業の成果主義はどうして失敗したのか?
第2章 ホワイトカラー・エグゼンプションという幻想
第3章 終身雇用制度は崩壊したのか?
第4章 グローバリズムとプレゼン文化の崩壊
終 章 再生シナリオ、日本の雇用
東洋経済オンラインから引用させていただきました)

◆本書を読む視点◆
・日本の雇用制度は何が問題だったのか?

◆本書を一言で表すと◆
・アメリカと日本の雇用環境の違いを冷静に解説

◆概要&感想◆
from 911/USAレポート」をJMMで連載されている冷泉さんによる、アメリカと日本の雇用について論じた本書。

主に以下の論点から各章が描かれています。
@アメリカの雇用環境の解説
A雇用のアメリカモデルの欠点
B日本の雇用環境の現状説明
C日本に雇用のアメリカモデルを導入する際に何が阻害要因となったのか

特に@とCが秀逸です。

まず本書を読むことで@のその文化的背景も含めたアメリカの労働モデル、雇用モデルについてよく理解ができます。
他人の職域を侵すな
例えば、その雇用モデルの前提となる考え方としてこのような不文律があります。
その前提があった上での労働モデル、雇用モデルであったことが、非常によく整理されて書かれています。
制度を日本へ導入するにあたって、その制度が機能するための前提がほとんど無視された
アメリカモデルを日本に導入するにあたっては、その意図の是非はともかく結果としてうまくいかなかったことの原因として端的にこのように述べています。

論旨として、まずアメリカの労働環境、雇用環境についての理解が足りない(もしくは意図的に目をつぶり、見ないふりをしたこと)ところに、何らかの意図(日本の競争力強化であったり、経営層のメリット追求であったり)を持ってアメリカモデルを導入したものの、そもそもの前提が異なるところへの導入なのでムリが生じてうまくいかない、という流れになっています。

日米の労働モデル、雇用モデルの違い、その主因として考え方や前提の違いが明確に書かれており、非常にわかりやすいです。

どちらがいい、悪いではありませんが(本書内ではあえてアメリカモデルを是とはしていない論調になっていますが)、これまで漠然と耳にしていたアメリカの労働環境、雇用環境の本当の姿が見えてくる、という意味でも面白いかと。

例えば、アメリカにおける「派遣社員」の位置付け。
結果が出なければすぐに「クビ」となるといういわゆる外資系企業のイメージ。
これら決して間違っているとは言えないものの、正確に実態を表しているわけではないことが多々描かれています。

何事もステレオタイプの見方、というに捉われてはいけない、ということですね。

アメリカの後追いをしようとして失敗した日本の労働、雇用モデルが、今後どの方向に向かおうとしているのか(本書内にも提言と言う形で提案されていますが)、考えるきっかけとなる一冊です。

◆気になったポイント◆
日本企業の組織メカニズムは、タテ、ヨコ、時間の三次元において、いずれも「一人の社員」「一組の上下関係」「一回の評価期間」では切ることができない、つまり三次元の空間の中で空間がはみ出したり、重なったりする、そのような組織の哲学によってできているのである。そこに独特の生産性と効率の秘密があるのだ。
日本の労働環境の特徴とアメリカの労働環境との対比でわかりやすく書かれています。
アメリカの雇用においては、確かに「柔軟な解雇」は可能となっている。だが、その代わりに「採用のチャンスも柔軟」なのである。
一方によくフォーカスされる一方で、その裏側は案外知られていないという好例だと思います。
「ご当地のアメリカ」でも行われていないような「集団主義を残した職場風土での成果主義」あるいは「時間の裁量性がない職場での時間管理の廃止」さらには「新卒一括採用と年功序列を残した中での解雇の柔軟化」といった、制度としてそれ自体が自己矛盾であるような施策も実施や検討が進んだのだった。
実情を把握していないこともさることながら、その結果がどうなるのか、という想像力の欠如がまた問題なのだと思います。
プレゼン文化は、価値観の多様性があってはじめて機能するはずだ。異質な価値、異なった観点がぶつかり合い、丁々発止のやり取りをする中から、合理性を手がかりに新しい仮説を生んでいく、そこで「プレゼン」と「ディベート」の持つその創造機能は最大限に発揮される。
何よりも自分が想定していなかったような例外的な事態への冷静な姿勢、どんな事態にも冷静な論理で立ち向かう謙虚な姿勢と、妥協点を見いだす柔軟性に欠ける、プレゼン文化の持っていた脆弱性は今明らかになったのではないだろうか。
何も考えずに受け入れるのではなく、強みとなる背景を理解し、どんなものにでもある弱みの部分を補うという姿勢が重要なのだと思います。

◆これからやること◆
・類似のアメリカの労働モデル、雇用モデルについて論じた本を読む

◆オススメしたい方◆
・アメリカの労働モデル、雇用モデルに興味がある方
・日本における労働モデル、雇用モデルに興味がある方
・日本の労働モデル、雇用モデルはどこへ向かうべきかに興味がある方
・JMMを見ている方

■関連リンク■
本書紹介ページ(東洋経済オンライン)
from 911/USAレポート(著者 冷泉 彰彦氏JMM連載レポート)
ブリンストン発 新潮流アメリカ(Newsweek日本版オフィシャルサイト)
オバマ大統領の就任演説を観ながら 冷泉彰彦さんに、なにかと訊く フルテキスト版。(ほぼ日刊イトイ新聞)

■関連過去エントリ■
[Book]「ニッポン社会」入門―英国人記者の抱腹レポート
[Book]キャプテン・アメリカはなぜ死んだか 超大国の悪夢と夢
[Book]アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない
[Book]ラーメン屋vs.マクドナルド―エコノミストが読み解く日米の深層 (新潮新書)
[Book]ルポ 貧困大国アメリカ



posted by Guinness好き at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Book | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック